金融業界におけるバイサイドとセルサイドのキャリアの違い

セルサイドとバイサイドの定義

セルサイドはクライアント商売

金融業界でセルサイドと呼ぶ際には一般的に投資銀行(Investment Bank)を指す。代表的な投資銀行は外資系だとゴールドマン・サックス、モルガンスタンレー、J.P.モルガン、日系では野村證券、SMBC日興証券などが挙げられる。

投資銀行は名前に「投資」の文字を含むが、彼ら自身で投資をすることは基本的にはない。基本的にと書いたのは、ゴールドマン・サックスのマーチャント・バンキング部門やドイツ銀行の戦略投資部門など、一部の投資銀行は社内に投資部門を持っているからだ。これらは後述のバイサイドに近い。

投資銀行の仕事は資金ニーズを抱える事業会社と投資ニーズを抱える投資家の両方をサポートし、資本市場の円滑な機能を維持することである。具体的には事業会社によるM&Aのサポート(投資銀行部門)やIPO・社債発行のサポート(キャピタルマーケット部門)、機関投資家の運用サポート(セールス・トレーディング部門)などが存在する。

いくつかの部門が存在するなかで共通するのは、投資銀行は自ら投資を行う主体ではなく、投資を必要としている事業会社や投資先を探している投資家に対して情報やアドバイスを提供してフィーをもらう「客商売」だということだ。

バイサイドの仕事は投資業

一方のバイサイドは自ら投資を行う投資ファンドを指す。個人の超富裕層や年金基金などから資金を預かり、投資リターンの一部をファンドのフィーとして受け取る。バイサイドはセルサイドに比べて1社ごとの規模が小さく様々な形態が存在するが、代表的にはPEファンドとヘッジファンドの2種類がある。

伝統的にはPEファンドやヘッジファンドの収入は「2:20(Two-Twenty)」と呼ばれるシステムで決まる。例えば1000億円を運用している投資ファンドがあった場合、投資リターンに関わらず運用額の2%(この場合は20億円)をマネジメント・フィーとして受け取る。これはファンドメンバーのベース給やオフィス・インフラ費用などに充てられる。

次に、このファンドが年間15%(この場合は150億円)の投資リターンを生んだ場合、そのリターンの20%(30億円)をファンドのパフォーマンス・フィーとして受け取ることが出来る。これはファンドメンバーのボーナスに充てられる。

つまり、セルサイドがクライアントへのアドバイスに対してフィーを受け取るのに対して、バイサイドは自ら投資を行い、その成果に応じて対価を受け取る。

PEファンドとヘッジファンドの違い

同じバイサイドの中でもPEファンドとヘッジファンドの間ではビジネスモデルに大きな違いがある。PEファンドはある企業の株式の大半または全てを買収することで経営権を獲得する。一方、ヘッジファンドは企業の発行済み株式の一部を売買するため投資先企業の経営に対する関与はほとんどない。

その結果、両者のビジネスモデルには大きな差が存在する。ヘッジファンドは企業の株式を為替や債券などと並ぶ1つの金融商品として見て比較的短期間に売買を行うため、よりピュアに投資家としての目利き(≒世界を見渡して価格と価値の乖離に投資すること)が求められるとも言える。

会社を丸ごと買収するPEファンドでは対象企業の経営陣のBuy-inを得て投資をすること自体の難易度が非常に高く、営業力や人脈・センスが求められる。案件を回すことよりも案件を獲得することの方が価値が高いという点でコンサルティングや投資銀行と似ている。

セルサイドとバイサイドのキャリアの違い

評価基準セルサイド(投資銀行)バイサイド(投資ファンド)
労働時間顧客の要求水準が高く、労働時間が長期化する傾向にある突発的に増えることはあるがセルサイドのサポートを受けられるため平均すると短い
給料事業会社やコンサルに比べて高いがアップサイドは限定的高いベース給に加えてリターン次第でアップサイドが大きい
雇用の安定性厳しい営業ノルマが課せられるシニア職になるまでは比較的安定個人の成果やファンド全体の成果によっては解雇リスクが存在する
採用数業界全体の人数が多く離職率も高いため採用数は安定している業界全体の人数が少なく離職率も低いため業界外からの採用数は少ない

労働時間はセルサイドの方が長い

金融業界は他の業界に比べて労働時間が長いと言われるが、セルサイドとバイサイドの間で差が大きい。一般的にはセルサイドの方が労働時間が長い傾向にある。

投資銀行は事業会社や投資ファンドに対して様々な専門的なサポートを提供する代わりに高いフィーを要求する。そのため、顧客側はそのフィー水準に見合うだけの貢献を求める。また、後述の通り投資ファンドには投資銀行出身者が多いため、タイムラインなどの要求水準が高い傾向にある。

顧客の無理な要望に応えるため、投資銀行は学歴や語学などの基本スペックの高い労働者を採用し、高い給料を払うことで深夜や土日を問わず働かせる仕組みになっている。投資銀行は一般的にコンサルティングファームよりも高い給料を支払うが、その差分の一部はこのような長時間労働に対する対価として説明できる。

When you win a lucrative multi billion dollar deal mandate and are about to blow up the junior team’s capacity

from Twitter (@ThisGuyFuchz)

一方、バイサイドの労働時間はセルサイドよりも短く、これは客商売と投資業というビジネスモデルの差に起因する部分が大きい。投資のリターンは長く労働すれば必ずしも上がるものでもなく、効率的に仕事をこなし意思決定に時間的・精神的なリソースを割くことが求められる。

また、投資案件に係る重大な事案が発生した場合などに突発的に忙しくなることがあるが、バイサイドは投資銀行の顧客であるため、作業は投資銀行の担当者に外注することも可能になる。

給料のアップサイドはバイサイドの方が大きい

給料という観点では、セルサイドもバイサイドも一般的にはかなり高い水準のベース給を受け取ることが出来るが、ボーナスによる大きなアップサイドが見込めるのはバイサイドだ。

投資銀行も昔はボーナスに夢がある仕事だった。タイムチャージ方式のコンサルタントと違い、投資銀行のM&Aなどはフィーが成功報酬型であるため本来はアップサイドが大きい。ただ、M&Aのコモディティ化によってフィーの水準は価格競争に晒され、昔のように莫大なフィーが取れる時代は終わった。

今でも投資銀行では高い年収が払われているが、きつい労働環境と年収を天秤に掛けたときに辞めないギリギリのラインで設定されている。規模の大きなディールに関われる投資銀行の仕事は魅力的だが、実際問題として給料が日系事業会社と同じ水準になって残る人は多くないだろう。

一方、前述の通りボーナスが投資リターンによって変わるバイサイドは依然として大きなアップサイドが残されている。世界的に金利水準が低下するなかで投資家の運用ニーズは今後もさらに高まることが予想され、安定的に高いリターンを生み出しているPEファンドやヘッジファンドにとっては追い風になるだろう。

雇用の安定性はセルサイドの方が高い

労働時間の短さと金銭的なアップサイドではバイサイドに軍配が上がるが、雇用の安定性という観点ではセルサイドの方が一般的には優れている。

バイサイドは顧客から大金を預かってうまく運用することが至上命題であるため、思うようにリターンが出ない場合や大きな損失を出した際にはダウンサイドリスクも存在する。また、リターンが出なければボーナスも出ないため自らファンドを去る人もいる。

また、バイサイドの中ではヘッジファンドに比べてPEファンドの方が雇用の安定性が高い。ヘッジファンドは個人の成績や貢献度合いが短期間で分かる一方、PEファンドはチームプレイであり一つの投資が完了するまでに5~10年が掛かることが背景にある。

一方、セルサイドはクライアントサービス業であるため、クライアントに依頼された仕事を愚直にこなしていけば急にクビなるようなリスクは少ない。特にジュニアメンバーの場合は本人のパフォーマンスが原因で解雇されるようなことは少ない。

ただ、セルサイドであってもタイトルが上がってシニアになると会社内での役割が作業員から営業へとシフトし、厳しいノルマが与えられる。投資銀行のような高額な無形商材は営業職の中でも最も難易度が高く、若手のころは活躍していてもシニアになった途端に営業が出来ずにドロップアウトするケースも少なくない。

業界自体の採用数はセルサイドの方が多い

業界全体の採用人数という観点ではセルサイドの方が圧倒的に門戸が広く、業界外からのエントリーは容易である。投資銀行の仕事は人気だが、仕事の負荷も大きく3年程度で離職する人が大半だ。また、労働集約性も高いためある程度の人数が必要になり、各社ごとに新卒・中途を合わせて通年で採用している。

一方、バイサイドは業界全体の人数が少なく、自発的な離職率も低いため、採用数はセルサイドに比べて圧倒的に少ない。投資業は究極的には意思決定が仕事であるため、多くの人員を必要としない。むしろ、質の低いメンバーを入れることでマイナスの効果の方が大きいため、採用に対してはかなり慎重になる。

また、前述の通りワークライフバランスや給与の観点でも恵まれているため、一度業界に入ると自発的にやめる人は少ない。そのため欠員補充のニーズも少なく、業界外からの採用数は必然的に少なくなる。これが「バイサイドは椅子取りゲーム」と言われる所以だ。

バイサイドへの転職は椅子取りゲーム

投資銀行は転職市場で安定して高い人気があり内定を獲得するための競争率も非常に高いが、多くの人が目指すということは裏を返すと常に採用枠があることを意味する。採用枠自体が少ないバイサイドは狙って入ることが難しくため人気企業ランキングに載ることはないが、世の中には隠れて甘い蜜を吸っている勝ち組が存在するものだ。

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