生命保険

生命保険業界と販売代理店は構造的な利益相反を抱える

生命保険業界では代理店チャネルの構造的な成長が続く

生命保険業界は販売力の勝負

国内の生命保険市場は年間の保険料収入ベースで30兆円以上の市場規模を誇り、日本は「生命保険大国」と呼ばれる。生命保険は契約そのものが商品である「無形商材」だが、その内容(「約款」)を自分で読む契約者は少ない。

https://money-alpha.jp/hoken/role-of-life-insurance/

商品の複雑性や情報の非対称性は消費者自身による商品の横比較を困難にし、生命保険市場は商品力より販売力の競争になっている。20世紀の生命保険各社は「生保レディ」と呼ばれる自社の専属営業職員を大量に雇い、縁故を中心とした販売網を構築してきた。

複数の保険を横比較できる保険代理店チャネルが成長

1996年の規制緩和以降、複数の保険会社の商品を横比較して最適な保険商品を選択できる「乗合代理店」と呼ばれる形態が急成長した。

代理店のチャネルシェアが高まるに従い、保険会社の販売戦略も見直しを余儀なくされた。これまで自社の専属営業職員に払っていた販売費の一部を、自社の商品を販売してくれる代理店への販売手数料に置き換える流れが続いた。

保険代理店が抱える構造的な利益相反

絶好調の保険代理店だが、近年ではそのビジネスモデルが抱える利益相反への批判が高まっている。本来的には保険代理店は複数の保険会社の商品を横断的に比較し、加入者にとってベストな商品を紹介するべきだ。しかし、代理店の収入源が保険会社からの手数料である以上、彼らは手数料の高い保険売りやすい保険を薦めるインセンティブを持つ。

代理店のビジネスモデルは販売手数料に依存

保険代理店のビジネスモデルは至ってシンプルだ。代理店の収入は保険の契約を獲得したときに保険会社から支払われる手数料報酬によって成り立っている。

保険代理店は保険の加入者から一切の料金を受け取らない。代理店各社は「無料相談」を掲げて保険に新規加入や見直しに関心のある人々を集客する。同時に、代理店は保険会社各社と販売(保険の世界では「募集」と呼ぶ)の委託契約を結び、来店したユーザーに適した保険を紹介する。

https://money-alpha.jp/hoken/life-insurance-channel/

過剰な販売インセンティブは顧客の意向の軽視に繋がる

例えば医療保険の契約を獲得した場合、加入者が年間に払う保険料の60%以上の販売手数料が保険代理店に支払われることが一般的だ。それに加え、翌年度以降も保険料の10%程度が継続手数料として代理店に支払われる。月2,000円の医療保険を1件売った場合、年間保険料24,000年×60%=14,400円の初年度手数料に加えて、次年度以降も2,400円の継続手数料が入る仕組みだ。

これらの手数料率は保険会社や各商品によって異なる。保険会社は自社の商品をより優先的に販売してもらうために高い手数料を設定しようとする。単純な手数料率以外にも、一定期間内の販売額が目標値を上回ると手数料が跳ね上がる仕組みが用いられるなど、保険会社は様々な工夫を凝らしている。この結果、顧客の意向を軽視した手数料目当ての募集が横行しており、金融庁は監視を強化している。

金融庁 ロゴ

保険会社による代理店の陣取り合戦

保険の加入チャネルが保険会社の専属営業職員から乗合代理店に移るなか、生保各社は独立系の保険代理店を相次いで傘下に収めようとした。

2015年5月、日本生命がライフサロンを買収し、保険会社による乗合代理店の買収の第1号案件となった。その後、住友生命や第一生命など他の生命保険会社も代理店への出資や買収に動いた。

出資者出資先時期備考
住友生命ほけんの窓口グループ2013年10月約7億円を出資(発行済株式の8%)
日本生命ライフサロン2015年5月買収
日本生命ライフプラザパートナーズ2015年11月3.8億円を出資(発行済株式の68.6%)
住友生命保険ひろば2016年10月山口FGと共同買収
日本生命ほけんの110番2017年4月買収
住友生命保険デザイン2017年8月買収
住友生命保険ほっとライン2018年1月出資(発行済株式の30%)
第一生命アルファコンサルティング2018年4月買収
日本生命ライフル保険相談2018年9月買収
オリックス生命ライフアシスト2020年2月買収

乗合代理店の顧客は20~30代の若年層が多く、家庭や職場への訪問を中心とした従来の専属営業職員チャネルだけではリーチすることが難しい。保険会社は販売代理店を傘下に収めることで自社の商品を優先的に売る仕組みを作り、契約獲得数の増加を狙う。

一方、顧客が乗合代理店に求めているのは顧客本位なコンサルテーションと商品紹介であり、特定の保険会社との資本関係によって商品提案の透明性が失われては業界の信用問題に繋がりかねない。一般的な顧客は知名度や周りの評判などから代理店を選び、保険会社との資本関係にまで気を配るケースは稀だ。

透明性を高めるための取り組み

金融商品は企業と消費者の間で情報の非対称性が最も大きい分野の一つだ。業界の健全な成長のためには適切な情報開示により消費者の信頼を得ることが欠かせない。金融庁の意向のもと、業界は販売手数料の不透明性を改善する方向に動いている。

error: