【M&A仲介の王者】日本M&Aセンターの5つの強みと今後の戦略

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社会の構造的な変化を背景にM&A仲介の市場は急速に成長

M&A仲介の市場は急成長

中小企業のM&A仲介の専門業者が猛威を振るっている。後継者不足問題を背景に事業承継を目的としたM&A件数が増える中、M&Aの仲介を生業とする専門業者の成長率と高い利益率が注目を集めている。

中でもM&A仲介業界の雄、日本M&Aセンターの高収益ぶりは圧倒的だ。銀行や証券会社が構造的な低収益に苦しむ中、日本M&Aセンターは9期連続増収増益と絶好調だ。

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蛇足だが、同社常務取締役の大槻昌彦氏はタレントの酒井法子さん(通称のりぴー)の新恋人だと週刊文春に報道された。金融業界の主役はすでに交代してしまったのだろうか。

日本M&Aセンターの売上高の推移

日本M&Aセンターの営業利益の推移

M&A仲介を専門に行う業者には日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ(MACP)、ストライク等があるが、各社とも2桁の成長率で事業を急拡大している。M&A仲介の市場拡大には社会の構造的な要因が存在する。

M&Aキャピタルパートナーズ ロゴ
ストライク ロゴ

中堅・中小企業の後継者不足

中堅・中小企業は地域の経済や雇用を支える存在だが、近年は後継者が見つからないことが理由で黒字でも廃業する企業が多い。

日本政策金融公庫の調査によると、60歳以上の経営者のうち50%超が将来的な廃業を予定しており、このうち約3割が「後継者難」を理由として挙げている。

経済産業省の試算では、後継者問題が解決しない場合、2025年頃までに最大約650万人の雇用と約22兆円分のGDPが失われると指摘されている。

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地域経済の衰退や雇用喪失のインパクトを緩和するため、後継者問題は喫緊の課題として国や県、地域金融機関などが中心となって推し進めており、中でも注目されているのが企業の存続を目的としたM&Aだ。

後継者のいない企業が他の企業に買収され一体になることにより、従業員や保有資産をそのまま引き継ぎ、事業を継続することが可能になる。

日本社会におけるM&Aの一般化

M&Aというと、以前は大手上場企業や投資ファンド、投資銀行やコンサルティングファームなどが活用する特殊な手法で、中堅・中小企業とは縁遠い世界だと思われていた。

しかし、今やM&Aは、従業員が数名の小規模の企業でも活用できる手法として一般に普及し始め、中堅・中小企業の創業者にとっても身近なものになりつつある。

背景には、銀行が優良な貸出先を見つけにくいなかで、M&Aに伴う資金需要を積極的に掘り起こしバックアップしてきたことや。過去20年にM&Aを増やす方向で様々な法整備がなされてきたことなどが挙げられる。

M&A仲介業務の専門性の高さ

国内のM&A件数が増える中でビジネス機会を得るのはM&A仲介会社だけではない。地方銀行や地場の証券会社、コンサルティングファーム等もM&A支援業務を拡大しようとしている。しかし、M&A仲介で安定して高収益を稼いでいる企業は少ない。

M&A仲介という業務は特殊な専門性を求められる。証券会社が得意とするような緻密な企業価値分析よりも、売り手と買い手両方の心理的満足度を高めるための営業的側面が重要になる。

伝統的にM&A仲介の仕事は不動産の仲介や保険販売などの歩合制営業と相性がいいと言われ、人材のプールも似ている。

M&A仲介の場合には営業力に加え、金融や法律などの知識を求められる。このような専門的な人材を採用・育成することは容易ではなく、M&A仲介専門業への参入障壁として機能している側面がある。

急成長するM&A仲介業界の中でも日本M&Aセンターは圧倒的

M&A仲介の業界が急成長する中、常に業界をリードしてきたのが日本M&Aセンターだ。時価総額では業界2位のM&Aキャピタルパートナーズを5倍以上の差で引き離す。

以下では日本M&Aセンターの強みを5つの切り口から分析する。

#日本M&Aセンターの強み
1全国の会計事務所・地方金融機関とのネットワーク
2圧倒的なM&Aのマッチング効率
3独自の手数料体系
4M&Aを軸とした総合力
5ストックオプションを活用した社員のマネジメント

全国の会計事務所・地方金融機関とのネットワーク

日本M&Aセンターの強みとしてまず挙げられるのが全国の会計事務所と地方金融機関(地方銀行・信用金庫)からM&A情報を集めるネットワークだ。会計事務所や地方金融機関は毎日のように中小企業と接触しているため、中小企業の後継者事情に精通している。

日本M&Aセンターは2019年12月時点で全国98行の地方銀行(全体の9割)と218の信用金庫(全体の8割)、そして903の会計事務所と提携し、M&Aの売り手企業を紹介してもらう。

紹介元は自分が紹介した企業のM&Aが成約した場合に日本M&Aセンターからフィーの20-30%をキックバックとして受け取ることが出来る。

この仕組みは日本M&Aセンターが生み出したもので、元会長の分林氏と三宅社長が日本オリベッティ時代に日本全国の会計事務所や金融機関にコンピュータの販売を行っていたことに由来する。

地方金融機関も低金利で本業の収益が厳しい中、率先してM&Aの売り手先の情報を日本M&Aセンターに紹介している。

年に1度開かれる「バンクオブザイヤー」では日本M&Aセンターに多くの案件を紹介した地方銀行が表彰を受けることが恒例行事になっている。

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圧倒的なM&Aのマッチング効率

会計事務所や地方銀行から売り案件の紹介を受けるシステムは日本M&Aセンターが作りだしたものだが、紹介側としては競合のM&Aキャピタルパートナーズやストライクに対して案件を紹介することもできる。それでも日本M&Aセンターが独走する理由は、M&Aマッチングにおける彼らの圧倒的な効率の高さにある。

紹介元の地方銀行などに支払われる手数料は、原則としてM&Aが成約したタイミングに発生する。地方銀行から受けた売り案件に対して適切な買い手を見つけてM&Aにつなげることは非常に難易度が高く、業界全体のマッチング効率は決して高くない。

日本M&Aセンターは早くからM&A仲介事業を始めて情報網を構築してきたため、同業他社に比べてより効率的にマッチングをすることが出来る。その結果、紹介元の地方銀行や会計事務所にも多くの手数料が支払われ、彼らは日本M&Aセンターに対してより積極的に案件を紹介するようになる。

独自の手数料体系

日本M&Aセンターが圧倒的な高収益を実現している背景には、彼らの特殊な手数料体系が存在する。M&A仲介業者の報酬は不動産仲介などと同様に成功報酬がメインだが、日本M&Aセンターの場合はそれに加えて「着手金」を受け取る。

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会計事務所や地方銀行から紹介を受けると、まずは日本M&Aセンターの担当者と売り手企業の間で無料相談が行われる。その後、売り手企業が本格的にM&Aを検討するとなった場合、日本M&Aセンターとの間に受託契約を結び、この際に売り手企業は日本M&Aセンターに対して着手金を支払う。

着手金は日本M&Aセンターの収益性を単純に押し上げるだけでなく、事業売却に真剣なオーナーを選別するという優れた効果がある。着手金を要求しないM&Aキャピタルパートナーズなどの場合、本当は事業を売却するつもりのないオーナーが、自分の会社の価値を知るためだけに仲介会社と契約するようなケースもあり、成約の歩留まりを下げることにつながる。

2015年5月時点での三宅社長のインタビューによると、年間の真剣な相談件数が約1,500件、そのうち約500件が受託につながるという。 日本M&Aセンターは本気でM&Aをしたいと思っているオーナーを事前に選別することで、自社の有限のリソースを効率良く活用し、より多くの制約を決めることが出来る。

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M&Aを軸とした総合力

日本M&Aセンターは「M&A総合企業」というコーポレートミッションを掲げ、M&Aに関する様々なファンクションを強化している。

M&A仲介は他の高単価営業職と同じく属人的な特性を持つため、会社の成長のためにはたくさんの案件を成約に導く人材(コンサルタント)を採用する必要がある。一方、M&Aに関する経験豊富な人材を大量に採用することは現実的に難しく、高付加価値人材の採用だけに依拠した成長戦略はどこかで限界がくる。

日本M&AセンターはM&Aに関する機能を自社で内製化することによって、M&A仲介という専門的な仕事を多様なバックグラウンドの人材が行えるような環境を整えている。

矢野経済研究所

矢野経済研究所は日本における市場調査のパイオニア的存在だが、日本M&Aセンターの子会社であるということはあまり知られていない。

日本M&Aセンターは2008年に矢野経済研究所の親会社であるヤノホールディングス株式会社の株式を第三者割当増資によって取得し、持分法適用関連会社化した(持株比率は25.19%)

経営の独立性は保持しているものの、提携の理由として日本M&Aセンターは以下の3つの理由を挙げている。

  1. 市場動向等のより的確な把握に基づく有効的なマッチングの推進
  2. 特定業種に特化した戦略的M&A提案の推進
  3. 矢野経済研究所のマーケティング・コンサルティング顧客へのエグゼキューション(実行手続)の共同推進

2016年には業界2位のM&Aキャピタルパートナーズが同業のレコフと関係会社のレコフデータを約30億円で買収している。レコフデータはM&A情報の専門誌「MARR」やデータベースを運営しているため、M&A仲介業者にとって関連データベースの価値は高いと推測される。

事業承継ナビゲーター

事業承継ナビゲーターは2016年8月に日本M&Aセンターが株式会社青山財産ネットワークス(東証2部上場)と共同で設立した。

青山財産ネットワークスは「財産を守る」ことを軸とした総合コンサルティング・ファームで、土地を持つ個人資産家や企業オーナーに対して財産に関する総合的なソリューションを提供している。

企業オーナーに対する資産運用アドバイスはM&Aと非常に相性がよく、日本M&Aセンターのソーシングに役立っていると思われる。

企業評価総合研究所

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企業評価総合研究所はM&Aを行う際の参考する株価算定を専門に行う組織で、日本M&Aセンターが2016年1月に設立した。社員の9割が女性で自由な働き方を実現することで、日本M&AセンターのESG要素を強化する役割も担っている。

大企業のM&Aにおいては売り手・買い手の両側にFA(Financial Advisor)として投資銀行等が就き、様々な専門的な手法を用いて適正な買収価格を算定することが一般的だ。一方、中堅・中小企業同士のM&Aではオーナー同士の大雑把な握りで価格が決まり、トラブルになることも多い。

日本M&AセンターはM&A仲介でありながら、買収時の一つの参考指標として中立的な立場で透明性のある公正なM&A取引価格を算定・提示している。

Batonz(バトンズ)

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Batonzは日本M&Aセンターグループに属する、インターネットによるオンライン事業承継マッチングサービスだ。「アンドビズ株式会社」が2019年4月から「株式会社バトンズ」に名称を変更した。

M&A仲介の業界3位であるストライクはインターネットを通じたM&Aマッチングサービス『SMART』を強みにしており、日本M&Aセンターも意識をしていると思われる。2019年3月末時点で累積ユーザー数2万4000人、累積成約実績192件で、国内の事業承継マッチングサービスでは最多だ。

会社の売却や跡継ぎ探しといったセンシティブなトピックがインターネットで完結することは少ないが、業界最大手として様々なサービスをフルラインで有することには価値がある。また、インターネット経由の問い合わせが増えることで、現状地銀や会計事務所に依存している売りニーズの発掘を自社で行うことも期待できるだろう。

日本プライベートエクイティ(JPE)

JPEは中堅・中小企業に特化したPEファンドであり、まだ国内でPEファンドが知られていない2000年に設立された老舗ファンドだ(ユニゾン・キャピタル設立は1998年)過去13年にわたり累積23社に投資し、IPOも含めて11社のエグジット(売却)を実現している。

JPEは日本M&Aセンターと日本アジア投資が46.0%ずつ出資していたが、2013年にそれぞれが主有するJPEの株式の一部を日本政策投資銀行(DBJ)に譲渡した。現在は日本M&Aセンターの出資比率は36.1%で持分法適用会社にあたる。

M&A仲介を本業にする日本M&Aセンターのイメージやカニバリゼーションが気になるところだが、三宅社長は「JPEは買収ファンドではなく、売り手と買い手の橋渡しをする“継承ファンド”だ」と説明している。

創業オーナーが急な病で倒れた場合など、すぐに買い手が見つからなくても会社を存続させなければならない状況は存在するため、M&Aの橋渡し役としてのファンドの役割は一定程度あると思われる。

日本投資ファンド(J-FUN)

日本投資ファンド(J-FUN)は2018年2月に日本M&Aセンターと日本政策投資銀行(DBJ)が共同出資で立ち上げたファンド運営会社だ。加えて地方銀行がLP(Limited Partner: 有限責任の出資者)として参加している。

第1号案件は石川県金沢市に拠点を置く菓子製造グループ「たくみやHD」との資本提携となり、2018年7月に案件が発表された。

「たくみやHD」に関するプレスリリース(以下、抜粋)によると、J-FUNは他の菓子関連会社の追加買収(ロールアップ)によって当該企業グループの価値を高めることや、その他ハンズオンの経営支援を行うと表明している。

資本参加後は、弊社株主・提携先である株式会社日本M&Aセンター及び株式会社日本政策投資銀行と連携し、菓子関連会社のアドオン投資など更なる資本提携戦略を推進し、たくみやHDを菓子業界における営業、製造、商品開発など横断的な機能を持つプラットフォーマーへ成長させるべく務めてまいります。

また、役員派遣を通じた経営体制強化と、PMIコンサルティングによりグループ間のシナジー効果を最大限発揮できる組織体制を構築してまいります。

これらの施策は通常のPEファンド(バイアウトファンド)と同種であり、JPEの場合と異なり日本M&Aセンターがプライベートエクイティ投資でリターンを取りに行こうとしていることが伺える。

一方、日本M&AセンターがM&A仲介を本業としているため、同じ売り案件をM&A仲介で買い手企業に紹介するか、自分で投資をするかの選択を迫られることになる。

地銀・会計士事務所から紹介を受けた売り案件のうち、質のいいものだけを自分のファンドで投資し、残りを仲介で買い手に紹介することは利益相反につながる。買い手としても、日本M&Aセンターが自分で投資したくない「ダメ案件」しかないと知ったら信用を失うだろう。

投資事業はM&A仲介と相性の良いビジネスだが、日本M&Aセンターとしては長年積み上げてきた信頼関係を壊さないように慎重なかじ取りが必要になる。

日本PMIコンサルティング

日本PMIコンサルティングは、M&A後の成長を実現するためのPMI(Post Merger Integration)に特化したコンサルティング事業を行う。

M&A仲介の事業は成約して手数料をもらったら終わりというイメージを持たれることもあるが、売り手・買い手の企業にとっては「成約」のあとの「成功」がゴールだ。

短期的なマッチングの効率だけを考えると一見不要な機能だが、日本M&Aセンターほどの規模になるとM&A後の効果も含めた評判を無視して焼き畑的に拡大することは難しい。

PMIはマッキンゼーやアクセンチュアなどの専業コンサルティング・ファームも提供する一般的なビジネスだが、日本PMIコンサルティングは定量面と定性面のバランスを差別化要素として挙げる。

一般的なコンサルティング・ファームによるPMIは買収後100日間に行う「100日プラン」という計画を様々なKPIとともに定量的に示す。

日本PMIコンサルティングは定性面として売り手・買い手の経営者やその家族の心理的ケアに注力している。案件によっては、成約後に売り手・買い手の「両家」をホテルのパーティ会場に招待し、結婚式のようなイベントを開催することもあるようだ。

ZUUM-A / THE OWNER

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ZUUM-Aは日本M&AセンターとZUUによる合弁会社で、経営者向けオンラインメディア「THE OWNER」を運営する。

「ZUU online」を運営するZUUのノウハウを活用し、2020年2月時点で月間100万PV、登録者1,000名を達成している。

「THE OWNER」では経営者と企業ステージの課題に合わせて、資産管理、成長戦略、M&Aなどのトピックについて専門的な情報を掲載している。

一般論として経営者は孤独であり、組織のトップとして同じ悩みを抱えていることが多い。日本M&Aセンターとしては、将来のM&Aにつながりうる経営者ネットワークを獲得するための1つの手段として注力している。

THE OWNERのイメージ

ストックオプションを活用した社員のマネジメント

日本M&Aセンターは従業員のマネジメントにおいてストックオプション(新株予約権)を非常にうまく活用している。直近では2017年10月にストックオプションの発行を公表したが、このストックオプションの行使には「2022年3月期までに連結経常利益150億円を達成する」という条件が含まれている。

日本M&Aセンターは過去にもこのような全社の業績連動型のストックオプションを発行しているが、社員のモチベーションアップ効果は非常に大きく、1年以上前倒しで目標を達成したこともある。

上記の2017年10月発表のストックオプションについても、公表時点の直近年度(2017年3月期)の連結経常利益は90.7億円だったが、2年後の2019年3月期には125.3億円を叩き出し、目標値の150億円に対して前倒しで進捗している。

M&A仲介の仕事は労働集約的であると同時に1人あたり売上が非常に高く、社員のモチベーションによって業績がぶれやすい業態である。全社の業績に連動するストックオプションを発行することによって、社員のモチベーションを高く維持することが9期連続増収増益という好業績の原動力になっている。

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