新規事業・起業

リクルートが過去に撤退した国内事業5つと社内の撤退ルール

リクルートは国内人材業界のトップ企業であると同時に、次々と新規事業を生み出していく起業家精神旺盛な企業としても知られている。

一方、新規事業には失敗がつきものだ。リクルートとはいえ、華々しい新規事業の裏には数多くの失敗事例が存在する。リクルートが過去に撤退を決めた事業と、撤退の基準を考察する。

リクルートの既存事業

新規事業を見る前にまずはリクルートの現在の事業ポートフォリオを確認する。リクルートは多くの事業を掲げるが、個別の事業は「メディア&ソリューション」「人材派遣」「HRテクノロジー」という3つのセグメント(または、SBU; Sub Business Unit)に分類される。

会社のIR資料などでは高収益・高成長で注目されているHRテクノロジーから紹介されることが多いが、ここではリクルートの成り立ちをより理解するために事業誕生の時系列に沿って見ていく。

メディア&ソリューション

メディア&ソリューションは販促と人材の領域からなり、2019年3月期の売上は7214億円、これはリクルートHD全体の31.2%に相当する。

販促領域では住宅情報サイト「SUUMO」やブライダル情報サイト「ゼクシィ」、美容系の「ホットペッパービューティー」や旅行予約の「じゃらん」など、各領域においてユーザーと事業者のマッチングするプラットフォームを運営している。そして、人材領域では「リクナビ」ブランドを中心とした新卒・中途採用支援や求人広告事業等を行っている。

リクルートは1960年の設立当時は「大学新聞広告社」という名前で、東京大学新聞向けに企業の説明会の告知広告を売り込む広告代理店業からスタートした。人材と広告のマッチングはリクルートのDNAであり、そこから効率的なマッチングプラットフォームを軸に他業種へ展開していった歴史がある。

今日ではリクルートは幅広い領域で圧倒的なマーケットシェアを獲得しており、新たな事業を生み出そうとしている起業家たちの間では「リクルートが進出しないところを狙え」「リクルートに目を付けられたときの対策を考えろ」と常に意識される存在になっている。

人材派遣

人材派遣事業は国内と海外を合わせて、2019年3月期の売上は1兆2902億円、これはリクルートHD全体の55.8%に相当する。実はリクルートの売上の半分以上は人材派遣ビジネスから来ている。

地域別では日本国内が約半分、残りを欧州・北米・オーストラリアで展開している。

リクルートの派遣事業はM&Aによって拡大してきた歴史を持つ。国内では、2007年に当時業界1位のスタッフサービス・ホールディングスと業界4位のアデコ(国内事業)を買収した。買収前のリクルートスタッフィングの2007年3月期売上は1555億円で業界5位、一方スタッフィングサービスHDの売上は3234億円、アデコは2079億円(2006年4月期)だった。「小が大を飲む買収劇」として大変注目されたが、この積極的なM&Aによってリクルートは国内派遣事業の確固たる基盤を築き上げた。

加えて、海外でも積極的なM&Aを行ってきた。そのためリクルートの海外派遣事業は今でも「The CSI Companies」「Staffmark Group」など多くのブランドを掲げている。

HRテクノロジー

HRテクノロジー事業の2019年3月期の売上は3269億円、これはリクルートHD全体の14.1%に相当する。オンライン求人情報検索サイト「Indeed」とオンライン口コミ・求人広告サイト「GlassDoor」が主要なビジネスラインだ。

IndeedとGlassDoorはともにリクルートが買収したアメリカ拠点の企業だ。Indeedは2012年10月に約1000億円で買収、GlassDoorは2018年5月に約1300億円で買収することを発表した。

Indeedは、Web上の求人情報のアグリゲーション(集約)と独自の検索アルゴリズムによって、ユーザーが求人情報をIndeedで一元的に検索できる仕組みを提供している。2012年の買収以降、リクルート傘下で急成長を遂げており、求人広告市場の市場シェア1位を有している。

GlassDoorは(利益ではなく)売上の約7倍という値段で、リクルートにとっては大変高い買い物になったが、Indeedにおける成功を受けてM&Aによる成長に舵を切っていることが分かる。

リクルートは2020年に人材領域におけるグローバルNo.1になるという目標を掲げてきたが、そのためにはテクノロジーの活用が不可欠だった。特に、これまで国内の労働集約的な営業ネットワークによって成長してきたリクルートにとって、テクノロジーで先行するIndeedやGlassDoorの買収は「時間を買う」という高い価値があったのだろう。

リクルートの新規事業創出の流れ

リクルートには「RingRecruit Innovation Group)」と呼ばれる社内の新規事業コンテストが存在し、これまでに中古車情報サイトの「カーセンサー」やブライダル情報サービス「ゼクシィ」、店舗予約システム「ホットペッパー」など様々な事業を生み出してきた。

リクルートグループの従業員は誰でも自由にRingに参加することができ、提案する事業のテーマもリクルートの既存事業に一切関係なく、完全に自由なアイデアを作ることができる。

また、秘密保持契約書を結ぶことで社外の人もチームメンバーとして参加することができ、新しいアイデアを生むための完全にオープンな雰囲気が用意されている。

Ringの審査を通過すると予算を与えられて実際に事業開発を行うフェーズに移行する。また、既存事業と全く異なる新しい取り組みを検討する際には、事業開発の進捗に合わせて段階的に審査を行い、予算やリソース配分を増やしながら最終的には部門化を目指していく。

過去にRingを通じて生み出された代表的なサービス

BizGROWTH

現職プロの副業人材マッチングサービス

エリクラ

“スキマ時間でできる、近所のお仕事”を提供するサービス

事業承継総合センター

オーナー社長のための後継者探し・買い手企業様探しサービス

Geppo

従業員のコンディション変化発見ツール

ノウビー

障がいを持つ方が施設に通いながら学べる就労支援オンライン学習プログラム

ペッツオーライ

病気・しつけ等のペットの困りごとを専門家へ相談できるサービス

スタディサプリ

「学習」や「進路選択」の支援サービス

ゼクシィ縁結び

はじめての婚活を応援する総合婚活サービス

ゼクシィ

結婚準備の総合サービス

カーセンサー

日本最大級の中古車情報サービス

キッズリー

保育園と保護者をつなぐコミュニケーションサービス

CodeIQ

ITエンジニアのための実務スキル評価サービス(2018年3月より年収確約スカウトサービス「moffers」に統合)

リクルート社内の事業撤退基準

上記のような数多くの新規事業を生み出してきたリクルートにも当然失敗はある。一般論として新規事業は成功より失敗の数が圧倒的に多く、リクルートにおいても例外ではない。

巨大な資本力と人的・知的リソースを抱えるリクルートであっても、全ての事業をダラダラと続けることはできない。競争力を持ち続けるためには事業の撤退の意思決定も必要になる。

リクルート創業者の江副浩正氏は著書の中で「起業はボトムアップで、撤退はトップダウンで」という言葉を残している。つまり、起業(社内の新規事業)はその担当者が目の前の「不」(課題)に向き合っていくことで大きくしていく一方、その撤退についてはマネジメントの巨視的な観点から判断するべきということだ。

江副 浩正(えぞえ ひろまさ)

東京大学在学中に株式会社リクルートを創業。「東大が生んだ戦後最大の起業家」と呼ばる。

また、リクルートの元社員によると、新規事業の継続/撤退の目安は「3年で黒字化、5年で累積黒字化」と言われているようだ。つまり、最初の2年間は赤字が許容されるが3年目には単年でP/Lが黒字化し、さらに5年目までには最初の2年間の赤字を埋め合わせる必要がある。

一方で、新規事業の評価基準は社会課題の変化に応じて柔軟に変化している。例えば、学習サービスの「スタディサプリ」は初期に数年間の投資を必要とする事業で、人件費が中心だったこれまでのリクルートの事業とは異なるタイムスパンで考える必要があった。

スタディサプリ(旧称: 受験サプリ)

リクルートマーケティングパートナーズが運営するWeb学習サービス。インターネットを通じて授業の動画を配信することで、大手予備校と同程度の質の高い授業を場所や時間を選ばず、スマートフォンやタブレットなど様々な端末で視聴できる。

小学校・中学校・高校の内容を揃えているほか、英検やTOEIC、公務員試験用の動画なども用意されている。リクルートのIR資料によると、2019年12月末時点で有料会員数は76.4万人。月額1,980円から利用可能。

「スタディサプリ」では事業開発部に加えて本部が資金を出し、その代わり事業についても口を出すというスタイルで進められた。今後、リクルートの事業のIT色が強くなっていくと人件費以外の投資額が増えることは自然であり、事業評価の在り方にも更なる変化が求められるかもしれない。

リクルートが撤退した国内事業

  • 電子チラシ配信事業「チラシ部!」
  • 家事代行事業「casial. (カジアル)」
  • 駐車場シェアリングサービス「SUUMO ドライブ」
  • 看護師人材事業「ナースフル」「フルル日勤JOB」
  • イベント支援事業「ATND(アテンド)」

電子チラシ配信事業「チラシ部!」

「チラシ部!」は2011年6月末に開始されたサービスで、インターネット上で地域のチラシやクーポン・キャンペーンなどの情報を提供していた。

前身となったのはチラシとテレビ番組の情報を自宅に配達する「タウンマーケット」(2008年3月に開始)というサービスで、その後Webやスマートフォンの利用が増加したことを受けてインターネットに特化した「チラシ部!」として刷新された。

リリース当時は新聞のビジネスモデルをディスラプトする存在として恐れられていたが、実際にはリリースから1年もたたず2012年3月16日にサービスを終了した。リクルートはその理由について以下のように説明している。

サービス開始以来、より多くのご利用者の皆様に、チラシ情報をご提供することができた一方で、クライアント様が期待されるさらなる価値(来店頻度の向上や購買数の拡大)を提供することが、現サービスでは困難と判断し、サービスを停止することを決定いたしました。

当時の報道によると、「チラシ部!」は積極的なテレビCMによって1年足らずで120万人の登録会員を集めたが、リクルートは収益モデルが構築できないと判断したようだ。

想定されていたモデルでは無料で配信した後にクーポン券やキャンペーンの実施などによって収益を得る計画だったが、スーパーの生鮮食品などのチラシが想定通りに入らず、転換に失敗したと思われる。

なお、博報堂DIYメディアパートナーも「とどくる」という同種のサービスを2011年10月から開始したが、12年9月に撤退を決めた。

家事代行事業「casial. (カジアル)」

「casial.」はリクルートスタッフィングが運営する家事代行事業で、2016年4月にサービスを開始した。

本業の人材派遣事業で培ったノウハウを活用し、リクルート自身が家事代行者を雇用して必要な家庭に派遣するというモデルを採用した。

海外ではベビーシッターや家政婦を雇う文化が存在するが、日本ではまだ他人を家に入れることに抵抗がある人も少なくない。

一方で、共働き世帯の増加によって家事代行の需要は拡大している。経産省は2012年度で980億円だった市場規模が将来的には約6000億円に達すると試算している。

しかし、「casial.」は2017年9月30日にサービスの提供を終了した。原因は少子高齢化と好景気によって人手不足が深刻化し、需要に対して供給が追い付かなかったことだと言われている。

家事代行サービスは典型的な労働集約型の産業であり、事業の成長のためには人材の確保がネックになる。また、十分な供給を確保できない状態では利用者側の満足度が下がり、中期的には需要を下がる要因になる。

DMMも2016年12月に家事代行のマッチングサービス「DMM Okan(おかん)」を立ち上げたが、2018年9月30日にサービスを終了した。

人材派遣大手のパソナも同様に家事支援事業「クラシニティ」を提供しているが、こちらは継続して事業を運営している。

「クラシニティ」は”OMOTENASHI”をコンセプトとしたハイクラスなサービスが中心であり、量より質の戦略を取っていることがサービス継続につながった一因だと推察できる。

駐車場シェアリングサービス「SUUMO ドライブ」

「SUUMO ドライブ」はリクルート住まいカンパニーが運営していた駐車場シェアリングサービスであり、2017年5月にサービスを開始した。

「SUUMO」の顧客基盤やノウハウを活用し、余っている駐車場を「貸したい」不動産側のニーズと、駐車場を探すドライバーの「借りたい」ニーズをオンライン上でマッチングする。

従来のコインパーキングと異なり、事前予約やカード決済に対応しており、最小単位は15分10円という格安料金で提供していた。

「SUUMO ドライブ」は2015年の社内新規事業コンテストにおいて当時の新卒社員2名が起案し、入賞したプロジェクトだ。当時は「シェアリングエコノミー」のコンセプトが普及し出したころで、「SUUMO ドライブ」もリクルート社内で大変注目されていた。

しかし、「SUUMO ドライブ」は2018年6月にサービスを終了した。撤退の原因としては、空き駐車場とドライバーの両方を確保することの難易度の高さが指摘されている。関連サービスの「SUUMO月極駐車場」も同時期にサービスを終了した。

楽天も同様のサービス「楽天パーキング」を2017年に開始したが、リクルートと同時期の2018年5月に撤退している。なお、ソフトバンクも「BLUU Smart Parking」というパーキングシェアリングサービスを2018年10月から提供している。

駐車場シェアの分野では2014年創業のベンチャー企業「akippa」が先行しており、駐車場数・利用ドライバー数ともに順調に伸ばしている。akippaの累積調達額は2019年10月時点で約35億円に達している。

akippaの金谷元気CEOは、楽天やリクルートなどの大手が参入してきたことについてTwitter上で以下のようにコメントしている。

数年前にソフトバンク、楽天、リクルートなどが競合として参入してきた。
でも悪いことばかりではなかった。まず大手が参入する度に大きなニュースとなり「駐車場シェア」のカテゴリ認知が向上していく。そしてニュース内に「最大手のakippaは」と書かれることによりakippaの認知拡大にもつながった。

また、大手資本が相次いで撤退した中でakippaが順調に事業成長してきた要因については以下のようにコメントしている。

ひとつは資金調達により、大手が新規事業にかける資金よりも予算を持てたことです。それとビジョン共感によって、Googleや楽天など大手IT企業のマネージャークラスが続々と転職してきたのも大きかったですね。

看護師人材事業「ナースフル」「フルル日勤JOB」

リクルートメディカルキャリアは2009年から看護師事業として人材紹介事業「ナースフル」と求人広告サービス「フルル日勤JOB」を展開していたが、2020年3月31日をもってこれらのサービスの提供を終了すると発表した。

看護業界は他の職種に比べて離職率が高く、常に人手不足の課題を抱えている。特に昨今の好景気を背景に採用競争は過熱しており、医療機関は人材紹介業者に高い手数料を払ってでも採用する必要があった。

歴史的には人材紹介の手数料率が転職後年収の30%程度なのに対して医療業界の人材紹介手数料率は10%と低く、リクルートなどの大手にとっては旨味の少ないマーケットだった。

現在、看護師のキャリア領域はSMSの牙城であり、2019年3月期には「医療キャリア」事業で124億円の売上を計上している。

SMSはリクルートの手薄な看護業界において全国の営業網と効率的なオペレーションモデルを展開したことでニッチトップの座を築いた。

人材大手のパーソルキャリアも2009年7月に看護師採用支援事業「DODAナース」を開始したが、2012年12月に実質廃止され、製薬関連企業への支援を中心とする「DODAメディカル」の一部として吸収されている。

イベント支援事業「ATND(アテンド)」

「ATND」はリクルートキャリアが運営するイベント集客サービスであり、2008年にサービスを開始した。主にIT系のイベントや勉強会に関して、各種イベントの告知や申し込みや運営管理などの機能を有している。

リクルートは2020年4月にサービスを終了すると発表しているが、その理由については言及されていない。イベント管理サービスにはPeatix(ピーティックス)などの競合が存在するが、リクルートの会社規模に対してTAM(Total Addressable Market; 実現可能な最大の市場規模)が小さいと判断されたのかもしれない。

ATNDのホームページのグラフィックからも、リクルートがこのサービスに十分なリソースを張って来なかったことは明らかだ。

(参考資料)

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