就活生のコンサル人気を背景に急増する選抜コミュニティとそのリスク

選抜コミュニティの普及

選抜コミュニティの定義と役割

選抜コミュニティとは、限られた人数の学生を就職活動の比較的早期(大学3年生・大学院1年生の4月頃)から囲い込み、半年~1年間の就活指導を通じて学生が希望する就職先からの内定獲得を支援するサービスである。選抜コミュニティ自体が近年に誕生した概念であり、一部の就活生の間で普及し始めたのは2015年頃だと思われる。

選抜コミュニティは競争率の高い企業への就職を希望する学生に対して集中的な指導を行い内定確率を高める役割を持つと同時に、優秀な少人数の学生を囲い込むことで社会人になったあとでも役に立つ質の高いネットワークを提供する役割がある。選抜コミュニティに参加するためには筆記試験やグループディスカッションなど様々な選考を突破する必要がある。

選抜コミュニティでは外資系のコンサルティング・ファームや投資銀行など、入社難易度の高い企業群をメインのターゲットとし、それらのターゲット企業への内定数または内定率をコミュニティの成績を図るKPIとして設定しているケースが多い。

就活生のコンサル人気が高まっている

選抜コミュニティが急速に普及した背景には、就活生の間でのコンサルティング業界の人気の高まりがある。終身雇用の崩壊を受けて転職を前提としたキャリア設計が当たり前になり、どこに行っても通用するスキルセットを若い内に身につけて自分の市場価値を上げたいというニーズにコンサル業界がマッチした。

また、商社や銀行など、伝統的に新卒採用に偏ってきた日系大手企業においても中途採用で即戦力人材を求める動きが出ており、キャリアの最初の3~5年間はコンサルティング会社で「修行」をし、転職市場における価値が高くなったときに自分のやりたいことを見つけて中途入社するという選択肢が増えた。

今後も国内のコンサルティング市場は中長期的に拡大することが見込まれており、それに伴って選抜コミュニティのニーズも伸びていくと思われる。

就活準備の早期化

選抜コミュニティの普及を支えたもう1つの要因としては、就活準備の開始時期が早期化していることが挙げられる。日本企業の国際競争力の低下や日本的雇用システムの機能停止を受けて学生の間では将来への不安が増しており、従来よりも早く就職活動のための情報収集やOBOG面談などを始める動きが出ている。

リクナビやマイナビなど伝統的な人材企業による就活支援は大学4年生/修士2年生の4月頃の合同説明会から始まることが一般的であり、それよりも早く対策を始めたいというニーズの空白地帯に選抜コミュニティがマッチした形だ。

就活の早期化によって選抜コミュニティと同様に支持を集めているものにベンチャー企業における長期インターンがあり、選抜コミュニティと長期インターンの両方を活用する学生も多い。

長期インターン参加者はその過程でベンチャー企業の自由な働き方や裁量の大きさに魅力を感じてベンチャー企業への就職を目指す人も多い。選抜コミュニティの参加者はコンサル・金融などの従来型のエリート企業に魅力を感じる人が多い傾向にある。

好景気による人材ビジネスの拡大

選抜コミュニティが増加した背景にはアベノミクス以降の好景気による人材ビジネスの拡大という側面も存在する。人材業界は一般的に景気感応度が高い。景気の良いときには採用が売り手市場になり、企業は優秀な人材を採用するために人材会社に高額なフィーを払う。

選抜コミュニティの多くが人材系の企業によって運営されており、学生に無料で就活支援を提供する代わりに、そこで得たデータを活用して人材紹介や斡旋でマネタイズするケースが一般的だ。

コミュニティの質は玉石混合

参加する学生の質の違い

未曽有のコンサル人気や好景気などを背景に雨後の筍のごとく急増した選抜コミュニティだが、各コミュニティの質はピンキリだ。選抜コミュニティのビジネスは参入障壁がゼロに等しく、誰でも始めることが出来てしまう。

就活ビジネスは就活生の不安と情報の非対称性につけ込むことで事業者側が構造的に有利になる業態であり、よほど下手なマーケティングを打たない限りは学生の頭数を用意することは難しくない。

最難関と言われる「YC塾」では毎年10名弱の学生を採用し、その倍率は高いときには100倍近くに上るという。当然受けに来る学生は東大や早慶などの優秀層であり、その選考難易度はマッキンゼーやゴールドマン・サックスの入社難易度と変わらないかそれよりも高い。

一方、「NEXVEL(ネクスベル)」などのコミュニティは「会員制」を謡いながらも実態としては誰でも加入することができ、内部で学生をランクに分けて指導内容などを管理している。これは選抜コミュニティというよりもリクナビの登録などに近い。

指導内容の違い

選抜コミュニティは就活生に対して有意義な情報や指導を提供することが一義的な存在価値になるが、それらの差もコミュニティによって大きく異なる。多くのケースでは、コミュニティのOBOGや知り合いの社会人に日当を払い、グループディスカッションや面接のアドバイスを依頼している。

そのため、指導の質はOBOGの質、つまりはコミュニティに参加する学生の質に依存しており、優秀な学生が集まるコミュニティでは必然的に良質な指導が受けられ、逆もまた然りという「コミュニティ間の格差の再生産」が起きている。

ビジネスモデルの違い

選抜コミュニティの多くは人材系の企業によって運営されているが、そのビジネスモデルの差にも注意が必要だ。特に運営会社の多くはベンチャー企業向けの採用支援を本業としている会社が多く、「コンサルティング・ファームに就職したいと思って選抜コミュニティに参加したらベンチャー企業ばかりを紹介された」というケースも存在する。

また、選抜コミュニティ自体で大きなマネタイズを図ろうとすると、どうしても規模の拡大に走る必要があり、誰でもいいから合格にしてランクに応じて様々な企業に斡旋するという乱暴な会社もある。選抜コミュニティを選ぶ際は運営会社について綿密なリサーチが必要だ。

選抜コミュニティのリスク

指導内容の正確性

就活の早期準備や良質な人的ネットワークなど様々なメリットを提供してくれる選抜コミュニティだが、参加にあたっては無視できないリスクが存在する。1つ目のリスクは選抜コミュニティの指導内容が必ずしも正しくないというリスクだ。

コミュニティによっては現大学4年生/大学院2年生の内定者に就活生の指導を依頼しているケースが少なくない。ゴールドマン・サックスの内定を獲得したからと言ってその内定者が会社の情報や採用基準等を正しく理解している可能性は非常に低く、多くの場合は自分の限られた経験に基づくバイアスのかかった情報を伝達している。

もちろん、どこにも正解がないなかで内定者の意見を聞くことは1つの参考になるが、「どうしてもこの企業の内定が欲しい」という追い詰められた状況に置かれた就活生が情報を正しく判断することは難しい。検証こそ難しいが、選抜コミュニティで誤った情報を教わったせいで本来取れたはずの内定を逃した学生もいるはずだ。

個人情報や評価の情報を扱い

もう1つの重要なリスクは個人情報の扱いに関するものだ。選抜コミュニティの多くがベンチャー企業や個人によって運営されているため、個人情報の扱いが徹底されていないケースが多い。

信じがたいことに、複数の選抜コミュニティにおいて、所属する学生の過去の選考情報やコミュニティ内で実施した筆記試験の結果などを、学生に無断で企業に提供しているケースが実際に存在した。これはまとまったデータベースとしての共有に加え、打ち合わせや飲みの場で口頭ベースで共有されることも含まれる。

学生の多くは自分が所属する選抜コミュニティやそこでのメンターを信頼しており、「〇〇の内定を断って〇〇に行こうと思っている」という相談をするが、その情報が様々な経路で(悪意の有無にかかわらず)対象企業の採用担当者に漏れていることがある。

リクルートが学生の内定辞退率のデータを企業に販売していた「リクナビ問題」が記憶に新しいが、人材採用業界において情報の価値は非常に高い。リクルートですら開けてしまった個人情報販売という「パンドラの箱」を、来月生きるか死ぬかの勝負をしている有象無象の人材系ベンチャーたちが遵守することはできるのだろうか。

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