スタートアップの流行り廃りを表す日本の起業家ランキング
Forbes Japanが注目の起業家ランキングを公開
投資家に対してさまざまな財務指標を公開して日々株価の評価を受けている上場企業と比べ、公開情報の少ないベンチャー企業は外から評価することが難しい。ベンチャー界隈の間ではどの会社が成功しているかという感覚を比較的持ちやすいが、それでも各業界のベンチャー企業の情報を収集し正しく評価することは簡単ではない。
その中で、Forbes Japanは「日本の起業家ランキング」を毎年公開しており、スタートアップの世界で注目されてる企業やテーマを知るうえで一定程度役に立つ。「日本の起業家ランキング」は「新しい日本」をつくる存在として日本経済を牽引する起業家を応援するというコンセプトのもと運営されている。
審査員は金融機関やVCを中心に構成
起業家に勝手にランキングを付けて発表するからには評価の妥当性・公平性が重要になる。ランキングの評価委員会は金融機関やVCを中心に構成されている。2020年のランキング作成にかかわった評価者は以下の通りだ。
- 松本 大(マネックスグループ)
- 谷家 衛(あすかホールディングス)
- 土田 誠行(産業革新機構)
- 仮屋園 聡一(グロービス・キャピタル・パートナーズ)
- 森川 亮(C Channel)
- 伊佐山 元(WiL)
- 狩野 仁志(フィスコ)
- 百合本 安彦(グローバル・ブレイン)
- 田中 仁(ジンズ)
- 千葉 功太郎(個人投資家 / Drone Fund)
- <アドバイザー>大櫃 直人(みずほ銀行)
ラクスルの松本恭攝氏は2016年から2018年まで3年連続でトップ10にランクインしたが、2020年からはランキング評価委員会側に参加している。M1グランプリでナイツの塙さんやサンドウィッチマンの富澤さんが審査員になったようなものだろうか。
スタートアップ業界の時代の変化を表す
日本の起業家ランキングを経年で見ていくと、スタートアップ業界の時代の変化を読み取ることが出来る。それは世の中の需要の変化に加え、ベンチャーキャピタル側がどんな事業に投資したいかという資金調達サイドの変化にも表れる。
ベンチャーキャピタル側も成功確度の高いスタートアップに投資しリターンを最大化させる義務があるため、すでに成功経験のあるテーマや株式市場で人気のある(=上場しやすい)テーマの企業に優先的に投資する傾向がある。
資金力の乏しいスタートアップにとって、事業を成長させるためには外部からの資金調達が欠かせない。流行りのテーマは資金調達しやすく、結果として事業を急成長させることが出来る。実際にメルカリやラクスルなど、ランキング入賞後に上場を成し遂げた企業も多い。

過去の日本の起業家ランキングと特徴
「日本の起業家ランキング」2016
順位 | 起業家 | 会社名 | 事業内容 |
---|---|---|---|
1 | 山田 進太郎 | メルカリ | フリマアプリ |
2 | 松本 恭攝 | ラクスル | 印刷マッチング |
3 | 杉江 理 | WHILL | 電動車いす |
4 | 梅田 優祐/新野 良介 | ユーザベース | ビジネス情報プラットフォーム |
5 | 鈴木 健/浜本 階生 | スマートニュース | ニュースキュレーションアプリ |
6 | 福山 太郎 | AnyPerk | 福利厚生代行サービス |
7 | 辻 庸介 | マネーフォワード | 家計簿管理ツール |
8 | 本蔵 俊彦 | クオンタムバイオシステムズ | DNA解析 |
9 | 玉川 憲 | ソラコム | IoT向けMVNO |
10 | 佐々木 大輔 | freee | クラウド会計ソフト |
「日本の起業家ランキング」2016ではメルカリ創業者の山田進太郎氏がトップに選ばれた。当時のメルカリは上場前に累積120億円以上の資金調達に成功し、米国事業にリソースを集中すると宣言していた。
ラクスルは小口の印刷ニーズと稼働が余っている印刷工場をインターネット上でマッチングする事業を展開し、日本におけるオンライン・プラットフォーム型のビジネスの走りとなった。
「日本の起業家ランキング」2017
順位 | 起業家 | 会社名 | 事業内容 |
---|---|---|---|
1 | 山田 進太郎 | メルカリ | フリマアプリ |
2 | 玉川 憲 | ソラコム | IoT向けMVNO |
3 | 松本 恭攝 | ラクスル | 印刷マッチング |
4 | 南 壮一郎 | ビズリーチ | 人材データベース |
5 | 寺田 親弘 | Sansan | 名刺管理ソフト |
6 | 杉江 理 | WHILL | 電動車いす |
7 | 辻 庸介 | マネーフォワード | 家計簿管理ツール |
8 | 岡田 光信 | アストロスケール | 宇宙ゴミ回収 |
9 | 尹 祐根 | ライフロボティクス | ロボット開発 |
10 | 佐々木 大輔 | freee | クラウド会計ソフト |
「日本の起業家ランキング」2017も引き続きメルカリ創業者の山田進太郎氏がトップに選ばれ、3年連続のNo.1となった。メルカリは2018年6月19日に東証マザーズに上場した。
2位にランクインしたソラコムはIoT向けの通信サービスを展開している。IoTによる製造業やサプライチェーンの効率化が注目され始めた時期で、2017年8月にはKDDIが約200億円でソラコムを買収すると発表した。
「日本の起業家ランキング」2018
順位 | 起業家 | 会社名 | 事業内容 |
---|---|---|---|
1 | 三輪 玄二郎 | メガカリオン | 血液製剤開発 |
1 | 松本 恭攝 | ラクスル | 印刷マッチング |
3 | 岡田 光信 | アストロスケール | 宇宙ゴミ回収 |
4 | 寺田 親弘 | Sansan | 名刺管理ソフト |
5 | 南 壮一郎 | ビズリーチ | 人材データベース |
6 | 坂野 哲平 | アルム | 医療アプリ |
7 | 名越 達彦 | パネイル | 電力需給管理システム |
8 | 長谷川 潤 | Omise | 事業者向け決済サービス |
9 | 鶴岡 裕太 | BASE | ネットショップ作成プラットフォーム |
10 | 尹 祐根 | ライフロボティクス | ロボット開発 |
「日本の起業家ランキング」2018では初めて製薬系企業がトップに選ばれた。メガカリオンはiPS細胞を活用した血液製剤の開発に取り組んでおり、2017年8月に世界ではじめて「iPS細胞」から血小板を大量生産する技術を確立した。
同率1位につけたラクスルは2017年7月にヤマトHDとの資本提携を発表し、従来の印刷業に加えてドライバー空き時間を活用したマッチング事業である「ハコベル」が注目された。
「日本の起業家ランキング」2019
順位 | 起業家 | 会社名 | 事業内容 |
---|---|---|---|
1 | 岡田 光信 | アストロスケール | 宇宙ゴミ回収 |
2 | 鈴木 健/浜本 階生 | スマートニュース | ニュースキュレーションアプリ |
3 | 鶴岡 裕太 | BASE | ネットショップ作成プラットフォーム |
4 | 南 壮一郎 | ビズリーチ | 人材データベース |
5 | 坂野 哲平 | アルム | 医療アプリ |
6 | 名越 達彦 | パネイル | 電力需給管理システム |
7 | 寺田 親弘 | Sansan | 名刺管理ソフト |
8 | 佐々木 大輔 | freee | クラウド会計ソフト |
9 | 長谷川 潤 | Omise | 事業者向け決済サービス |
10 | 中島 徳至 | Global Mobility Service | 低所得者向け自動車ローン |
「日本の起業家ランキング」2019では宇宙ゴミの回収に向けて航空宇宙技術を開発するアストロスケールがトップに選ばれた。活動限界を迎えたロケットの破片などの宇宙ゴミ(スペース・デブリ)が宇宙空間に蔓延し、将来のロケットの打ち上げや効率的な宇宙開発の妨げになると指摘されていた。
2位にはニュースキュレーションアプリのスマートニュースが選ばれた。キュレーションメディアについては2016年にDeNAが運営していた医療キュレーションサイト「Welq」が「肩こりの原因は幽霊」などのクオリティの低い記事を大量生産し問題になった。スマートニュースでは過去の閲覧履歴などのデータから各ユーザーの求める情報をサジェストする機能が人気となった。
「日本の起業家ランキング」2020
順位 | 起業家 | 会社名 | 事業内容 |
---|---|---|---|
1 | 鈴木 健/浜本 階生 | スマートニュース | ニュースキュレーションアプリ |
2 | 石山 洸/春田 真 | エクサウィザーズ | AIコンサルティング |
3 | 瀧口 浩平/豊田 剛一郎 | メドレー | 医療情報プラットフォーム |
4 | 長谷川 潤 | Omise | 事業者向け決済サービス |
5 | 赤川 隼一 | ミラティブ | ライブ配信プラットフォーム |
6 | 中島 徳至 | Global Mobility Service | 低所得者向け自動車ローン |
7 | 庵原 保文 | ヤプリ | アプリ開発プラットフォーム |
8 | 愼 泰俊 | 五常・アンド・カンパニー | 途上国の貧困層向け金融サービス |
9 | 袴田 武史 | ispace | 民間月面探査 |
10 | 平野 未来 | シナモン | AIコンサルティング |
「日本の起業家ランキング」2020では前年2位のスマートニュースが首位を獲得する中で、AIを用いたコンサルティングを提供するエクサウィザーズとシナモンがランクインしている。
2019年後半まで続いた好景気で企業はカネ余りになり、将来の事業アイデアにつながる種まきとしてAI系のベンチャー企業に次々とR&Dプロジェクトを発注した。景気の先行き不透明感が増す中で、2021年版のランキングでAIベンチャーが何社選ばれるかは注目したい。